忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「終の棲家」で千京死ネタ

春に書いたやつ。
_______________________



「ああ、今日は満月だ」

闇にぼうっと浮かび上がる大きな月。
ぼんやりと周囲を照らす優しい光。
少しだけ冷たいけれど、温かみを帯びた風。
薄光に照らされ、風に揺らされ、存在感を示す大きな桜。


「わぁ…綺麗な桜だね、伊織」


以前連れてきてもらったときは気づかなかった。
洋館の近くにこんな大きな桜が咲いていたなんて。


あれからどれほど経ったろう。
京一郎がここに来るのは、二度目だった。


「ここにしましょうか」


館内に足を運びかけるのを止め、京一郎は桜の木に近づいた。
千家を幹に凭れかからせ、自分はその横に腰を下ろした。
まるで幼子にするかのように、愛おしい頭を抱きしめる。


「伊織」


千家は目を瞑ったまま応えない。


「ねぇ伊織。以前連れてきてもらった時に言ったよね?」


穏やかに笑ったまま、京一郎は続ける。


「貴方のいない世界で、私が生きているはずがないって」


頬にかかった髪を分けてやり、流れる艶髪を梳く。
頬を、頭を撫でる。


「ねぇ伊織」


やはり千家は応えない。
目を瞑ったまま、今までにないくらい穏やかな顔をして。


「私もね、疲れてしまったよ」


亡者に魂を食われた千家は、反魂術ではもはや再生できなかった。
かといって、京一郎には千家の肉体を使役する勇気はなかった。

術をかけて、腐り落ちるのを防ぐことが精一杯だった。
術のおかげで、数年経った今でも千家の亡骸は少しも腐っていない。


「伊織。もういいよね?」


ー私、一所懸命に頑張ったんですよ。貴方のいない世界で、心を殺して。


千家の真っ白な頬を掌でなぞる。
京一郎はどうしても、千家とこの場所に来たかった。
戦争も世界も全てを忘れて、二人きりでこの場所へ。


「貴方を一人にしてごめんね」


千家伊織。こんな世界に自分を一人置いていった彼が憎くて憎くて、どうしようもなく愛おしくて。どうしようもない感情が込み上げる。次々流れ出る泪を拭きもせず、京一郎は笑った。


「ふふ。おかしいな。貴方が食われた時だって一度も出てこなかったのに」

千家を抱きしめる。


「もうすぐ逢えるよ」


大事なものを取り出すかのように、懐から短刀を取り出す。
白い懐紙を折って刃の付け根を挟み、腹ではなく、自らの首に刃を当てて、グッと力を込める。


ー切腹なんて名誉なものじゃない。これは、斬首だ。


あまりに多くの人を殺してきた。
あまりに手を汚しすぎた。
だから最期は、京一郎自身が、京一郎を処刑する。

全ての罪を包括できるとは思っていない。
ただこれは、京一郎の自己満足だ。


ー貴方の罪も含めて、私がこの櫻に懺悔しましょう。


ーこの櫻に祈りましょう。我が國の、弥栄を。


躊躇なく刀を引く。
ざしゅ、という音が聞こえた。
皮膚を切り裂く鋭い痛みのあとは、熱と鼓動だけを感じる。
溢れ出る血。


身体がぐらりと傾き、霞みゆく視界に映ったものは、幸せの詰まった洋館と、恐ろしいほどの満月と、妖しく光る櫻と-


ーそして、月明かりに包まれた、美しき我が共犯者。





PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード