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見合い話の館千3

お久しぶりです。
この時代にこのような見合いがあったのか?
目を伏せましょう。
そしてまた続きます。
__________
数日後。



「私は見合いを受けようと思う」



夕食の席で、館林は唐突にそう切り出した。

千家はしばし動きを止めて館林を見つめたが、すぐに食事を再開してぽつりと言った。



「そうか」



浅ましく引き止められるとは思っていなかった。
予想通りの反応。

だが実際目の当たりにすると憎らしい。
館林はこんなにも千家を想って苦しんでいるのに、あっさりと了承する千家。
…なんて憎らしい男だろう。


「……あぁ。」


これでいいんだ。
何度身体を重ねても、千家と館林は一緒にはなれない。
世間も家柄も、何もかもが二人の関係を許さない。
ならばいっそ突き放して、解放してやるのが愛情というものだ。

…これが私の愛情だ。千家。

「見合いを、受ける」

自らに言い聞かせるように、もう一度呟く。
深みに嵌って抜け出せなくなる前に、まだ手の届くうちに、明るい場所へ。







「お見合いを受けてくだすって…」

誇らしい表情に、美しく着飾った、母親であろう女性。
緊張した面持ちの、父親であろう男性。
そして頬を染めた器量の良い娘。
父親はどこかのパァティで見た顔だった。


とある料亭で館林の見合いが敢行されていた。
両親の無い館林の同行は姉のみである。
両家和やかな雰囲気で見合いは進行していた。
館林開のみ、笑みを浮かべるに留め、何も言葉を発していない。

「あの、館林様のご趣味は…?」

黙りこくった館林に気を遣ったのか、娘が恥ずかしそうに質問した。
とても可愛らしく優しげな娘だった。

「…鍛錬、です」

「まぁ、頼もしいことですわね」

ほほほ、と母親が嬉しそうに笑う。
娘も同じように微笑む。

「自慢じゃありませんが生真面目な弟でして」

姉が話を合わせながら笑う。

これが『幸せ』なのだろう。
釣り合う家同士の妙齢の男と女が結婚する。
子供をもうける。

これが普通なのだ。
誰もが求めるあるべき姿。







千家は、館林邸の自室で哲学書を読んでいた。
夜着のまま、だらしなくソファに座っている。

今頃館林が見合いをしているだろう。
緊張してはにかんだ笑みを浮かべているところが目に浮かぶ。
千家は口元を歪めた。

あの男はいつか結婚する。
わかってはいたことだが、あまりに急な話で実感が湧かない。
もっと先の話だと、漠然と思っていたのだ。

軍内では今後さらに地位が上がっていくであろう男。
よもや見合いを断られることはないだろう。
このまま女と祝言をあげ、子供を授かり、そして『幸せ』になる。


いまこのとき、異質なのは千家の存在だけだった。


「……」
読書の内容はまるで頭に入って来ない。暗闇に置き去りにされたような、不安感が全身を襲う。呪詛体の役目を解かれてから久しく感じていなかった、黄泉の世界と同化しているような感覚。現世に千家を捉えておくものが無くなったような、あの感覚。

館林のことを考えるたび、すうっと指先が冷え、ずきんと頭が痛む。
肺が冷たくなって息苦しい。


-私はいま体調が悪いのだろう。
ぱたんと本を閉じ、ベッドに潜り込んで目を閉じた。

どれくらいそうしていたか。
安静にしていても不安感は消え去らなかった。
頭痛はより激しく、身体はどんどん冷えていく。


呪詛と関係のない不調はどうしたら治るのか。
千家にはわからなかった。
ただ、根本的に足元が崩れ去っていくような感覚だけは理解できた。
ああ、もしかしてこれが、

「ひとり、か」

これが孤独かと、まるで他人事のように思った。


最近館林がそこにいることが当たり前になっていた。
だからこそ、ひとりだという事実を強く再認識した。

千家は、息苦しさを堪えながら自らを抱きしめた。





「……」
「……」

重い空気の夕食だった。
館林も千家も口を開くことなく、黙々と爺やの料理を口に運ぶ。

館林の想いも千家の様子も把握している爺やは、何も言わなかった。
知っているからこそ、何も言えなかった。





館林の見合いは順調に進んでいた。
見合い以来、すでに娘とは二度ほど会っていた。

なんということはない、良き妻、良き母となるであろう娘だ。
きっと良い家庭を築くだろう。


一方、千家に見合いの話をいくつも紹介したが、子孫を残す気はないと全て断られた。


館林の苛立ちは募る。千家を想っての判断だというのに、当の千家は見合いを受けない。それどころか館林との接触を断ち始めた。もう数日一言も話しをしていない。

こうして夕飯を共に取ることだけが接点となった。
だが、会話を振っても続かない。話題も思いつかない。

どうして、なぜわからない。
なぜわかってくれない。

館林は混乱していた。






「……私はこの屋敷を出ようと思う」

そんな折り、夕食の席で、千家が真っ直ぐに館林を見て言った。
術式作戦を遂行していた時と同じような瞳で、真っ直ぐに館林を見たのだ。

「え……」

館林は絶句したまま、千家を見つめ返した。

爺やはやはり何も言わず、空いた皿を下げた。




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