見合い話の館千3
お久しぶりです。
この時代にこのような見合いがあったのか?
目を伏せましょう。
そしてまた続きます。
__________
この時代にこのような見合いがあったのか?
目を伏せましょう。
そしてまた続きます。
__________
数日後。
「私は見合いを受けようと思う」
夕食の席で、館林は唐突にそう切り出した。
千家はしばし動きを止めて館林を見つめたが、すぐに食事を再開してぽつりと言った。
「そうか」
浅ましく引き止められるとは思っていなかった。
予想通りの反応。
だが実際目の当たりにすると憎らしい。
館林はこんなにも千家を想って苦しんでいるのに、あっさりと了承する千家。
…なんて憎らしい男だろう。
「……あぁ。」
これでいいんだ。
何度身体を重ねても、千家と館林は一緒にはなれない。
世間も家柄も、何もかもが二人の関係を許さない。
ならばいっそ突き放して、解放してやるのが愛情というものだ。
…これが私の愛情だ。千家。
「見合いを、受ける」
自らに言い聞かせるように、もう一度呟く。
深みに嵌って抜け出せなくなる前に、まだ手の届くうちに、明るい場所へ。
*
「お見合いを受けてくだすって…」
誇らしい表情に、美しく着飾った、母親であろう女性。
緊張した面持ちの、父親であろう男性。
そして頬を染めた器量の良い娘。
父親はどこかのパァティで見た顔だった。
とある料亭で館林の見合いが敢行されていた。
両親の無い館林の同行は姉のみである。
両家和やかな雰囲気で見合いは進行していた。
館林開のみ、笑みを浮かべるに留め、何も言葉を発していない。
「あの、館林様のご趣味は…?」
黙りこくった館林に気を遣ったのか、娘が恥ずかしそうに質問した。
とても可愛らしく優しげな娘だった。
「…鍛錬、です」
「まぁ、頼もしいことですわね」
ほほほ、と母親が嬉しそうに笑う。
娘も同じように微笑む。
「自慢じゃありませんが生真面目な弟でして」
姉が話を合わせながら笑う。
これが『幸せ』なのだろう。
釣り合う家同士の妙齢の男と女が結婚する。
子供をもうける。
これが普通なのだ。
誰もが求めるあるべき姿。
*
千家は、館林邸の自室で哲学書を読んでいた。
夜着のまま、だらしなくソファに座っている。
今頃館林が見合いをしているだろう。
緊張してはにかんだ笑みを浮かべているところが目に浮かぶ。
千家は口元を歪めた。
あの男はいつか結婚する。
わかってはいたことだが、あまりに急な話で実感が湧かない。
もっと先の話だと、漠然と思っていたのだ。
軍内では今後さらに地位が上がっていくであろう男。
よもや見合いを断られることはないだろう。
このまま女と祝言をあげ、子供を授かり、そして『幸せ』になる。
いまこのとき、異質なのは千家の存在だけだった。
「……」
読書の内容はまるで頭に入って来ない。暗闇に置き去りにされたような、不安感が全身を襲う。呪詛体の役目を解かれてから久しく感じていなかった、黄泉の世界と同化しているような感覚。現世に千家を捉えておくものが無くなったような、あの感覚。
館林のことを考えるたび、すうっと指先が冷え、ずきんと頭が痛む。
肺が冷たくなって息苦しい。
-私はいま体調が悪いのだろう。
ぱたんと本を閉じ、ベッドに潜り込んで目を閉じた。
どれくらいそうしていたか。
安静にしていても不安感は消え去らなかった。
頭痛はより激しく、身体はどんどん冷えていく。
呪詛と関係のない不調はどうしたら治るのか。
千家にはわからなかった。
ただ、根本的に足元が崩れ去っていくような感覚だけは理解できた。
ああ、もしかしてこれが、
「ひとり、か」
これが孤独かと、まるで他人事のように思った。
最近館林がそこにいることが当たり前になっていた。
だからこそ、ひとりだという事実を強く再認識した。
千家は、息苦しさを堪えながら自らを抱きしめた。
*
「……」
「……」
重い空気の夕食だった。
館林も千家も口を開くことなく、黙々と爺やの料理を口に運ぶ。
館林の想いも千家の様子も把握している爺やは、何も言わなかった。
知っているからこそ、何も言えなかった。
*
館林の見合いは順調に進んでいた。
見合い以来、すでに娘とは二度ほど会っていた。
なんということはない、良き妻、良き母となるであろう娘だ。
きっと良い家庭を築くだろう。
一方、千家に見合いの話をいくつも紹介したが、子孫を残す気はないと全て断られた。
館林の苛立ちは募る。千家を想っての判断だというのに、当の千家は見合いを受けない。それどころか館林との接触を断ち始めた。もう数日一言も話しをしていない。
こうして夕飯を共に取ることだけが接点となった。
だが、会話を振っても続かない。話題も思いつかない。
どうして、なぜわからない。
なぜわかってくれない。
館林は混乱していた。
*
「……私はこの屋敷を出ようと思う」
そんな折り、夕食の席で、千家が真っ直ぐに館林を見て言った。
術式作戦を遂行していた時と同じような瞳で、真っ直ぐに館林を見たのだ。
「え……」
館林は絶句したまま、千家を見つめ返した。
爺やはやはり何も言わず、空いた皿を下げた。
2へ 4へ
「私は見合いを受けようと思う」
夕食の席で、館林は唐突にそう切り出した。
千家はしばし動きを止めて館林を見つめたが、すぐに食事を再開してぽつりと言った。
「そうか」
浅ましく引き止められるとは思っていなかった。
予想通りの反応。
だが実際目の当たりにすると憎らしい。
館林はこんなにも千家を想って苦しんでいるのに、あっさりと了承する千家。
…なんて憎らしい男だろう。
「……あぁ。」
これでいいんだ。
何度身体を重ねても、千家と館林は一緒にはなれない。
世間も家柄も、何もかもが二人の関係を許さない。
ならばいっそ突き放して、解放してやるのが愛情というものだ。
…これが私の愛情だ。千家。
「見合いを、受ける」
自らに言い聞かせるように、もう一度呟く。
深みに嵌って抜け出せなくなる前に、まだ手の届くうちに、明るい場所へ。
*
「お見合いを受けてくだすって…」
誇らしい表情に、美しく着飾った、母親であろう女性。
緊張した面持ちの、父親であろう男性。
そして頬を染めた器量の良い娘。
父親はどこかのパァティで見た顔だった。
とある料亭で館林の見合いが敢行されていた。
両親の無い館林の同行は姉のみである。
両家和やかな雰囲気で見合いは進行していた。
館林開のみ、笑みを浮かべるに留め、何も言葉を発していない。
「あの、館林様のご趣味は…?」
黙りこくった館林に気を遣ったのか、娘が恥ずかしそうに質問した。
とても可愛らしく優しげな娘だった。
「…鍛錬、です」
「まぁ、頼もしいことですわね」
ほほほ、と母親が嬉しそうに笑う。
娘も同じように微笑む。
「自慢じゃありませんが生真面目な弟でして」
姉が話を合わせながら笑う。
これが『幸せ』なのだろう。
釣り合う家同士の妙齢の男と女が結婚する。
子供をもうける。
これが普通なのだ。
誰もが求めるあるべき姿。
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千家は、館林邸の自室で哲学書を読んでいた。
夜着のまま、だらしなくソファに座っている。
今頃館林が見合いをしているだろう。
緊張してはにかんだ笑みを浮かべているところが目に浮かぶ。
千家は口元を歪めた。
あの男はいつか結婚する。
わかってはいたことだが、あまりに急な話で実感が湧かない。
もっと先の話だと、漠然と思っていたのだ。
軍内では今後さらに地位が上がっていくであろう男。
よもや見合いを断られることはないだろう。
このまま女と祝言をあげ、子供を授かり、そして『幸せ』になる。
いまこのとき、異質なのは千家の存在だけだった。
「……」
読書の内容はまるで頭に入って来ない。暗闇に置き去りにされたような、不安感が全身を襲う。呪詛体の役目を解かれてから久しく感じていなかった、黄泉の世界と同化しているような感覚。現世に千家を捉えておくものが無くなったような、あの感覚。
館林のことを考えるたび、すうっと指先が冷え、ずきんと頭が痛む。
肺が冷たくなって息苦しい。
-私はいま体調が悪いのだろう。
ぱたんと本を閉じ、ベッドに潜り込んで目を閉じた。
どれくらいそうしていたか。
安静にしていても不安感は消え去らなかった。
頭痛はより激しく、身体はどんどん冷えていく。
呪詛と関係のない不調はどうしたら治るのか。
千家にはわからなかった。
ただ、根本的に足元が崩れ去っていくような感覚だけは理解できた。
ああ、もしかしてこれが、
「ひとり、か」
これが孤独かと、まるで他人事のように思った。
最近館林がそこにいることが当たり前になっていた。
だからこそ、ひとりだという事実を強く再認識した。
千家は、息苦しさを堪えながら自らを抱きしめた。
*
「……」
「……」
重い空気の夕食だった。
館林も千家も口を開くことなく、黙々と爺やの料理を口に運ぶ。
館林の想いも千家の様子も把握している爺やは、何も言わなかった。
知っているからこそ、何も言えなかった。
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館林の見合いは順調に進んでいた。
見合い以来、すでに娘とは二度ほど会っていた。
なんということはない、良き妻、良き母となるであろう娘だ。
きっと良い家庭を築くだろう。
一方、千家に見合いの話をいくつも紹介したが、子孫を残す気はないと全て断られた。
館林の苛立ちは募る。千家を想っての判断だというのに、当の千家は見合いを受けない。それどころか館林との接触を断ち始めた。もう数日一言も話しをしていない。
こうして夕飯を共に取ることだけが接点となった。
だが、会話を振っても続かない。話題も思いつかない。
どうして、なぜわからない。
なぜわかってくれない。
館林は混乱していた。
*
「……私はこの屋敷を出ようと思う」
そんな折り、夕食の席で、千家が真っ直ぐに館林を見て言った。
術式作戦を遂行していた時と同じような瞳で、真っ直ぐに館林を見たのだ。
「え……」
館林は絶句したまま、千家を見つめ返した。
爺やはやはり何も言わず、空いた皿を下げた。
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